反弾圧情報コーナー 2015年8月

8月1日 警察庁で、人事異動が行われた。その一部を紹介する。生活安全局長に警視庁副総監から種谷良二が。警備局長に総括審議官の沖田芳樹が。外事情報部長に神奈川県警本部長の松本光弘が。官房審議官=東京オリンピック担当に警視庁警備部長の斎藤実が。警視庁の警視総監に警備局長の高橋清孝が。副総監に京都府警本部長の山下史雄が。さらに、原子力規制庁次長に警察大学校長の荻野徹が、それぞれ充てられた。

15日 アメリカの新聞「ニューヨークタイムズ」は、米国家安全保障局(NSA)による国内でのインターネット通信の傍受活動に、通信大手会社のAT&Tが長年にわたって「極めて協力的」だったと報じた。アメリカでは愛国者法に基づく傍受が時限立法で期限が切れた中、オバマ政権は「米国自由法」を新たに制定し、傍受を認めたものの一定の制限を課した。今後、大統領選での焦点になる可能性もある。

19日 大阪地裁(芦高源裁判長)で、少女への強姦と強制わいせつの罪で懲役12年が確定し、約3年半の服役後に被害証言が虚偽だったとして再審開始決定が出された70代男性の最新の初公判が開かれた。検察側は「無罪は明らかで虚偽を見抜けず誠に申し訳ない」と謝罪し即日結審した。10月16日の判決で無罪が言い渡される見込みだ。弁護側は取り調べた検事らの証人尋問を求めたが、却下された。

21日 東京地裁は、東京電力福島第一原発事故をめぐり、東電の元幹部3人が強制起訴されることになったことで、検察官役に石田正三郎、神山啓史、山内久光の3弁護士を選任した。

27日 欧州の国際特急列車タリスで起きたテロ事件を受けて、各国で鉄道でのテロ対策・安全確保が課題となっている。従来、欧州の鉄道は乗車時の手荷物検査はないが、これの見直しが始まりそうだ。

フランスでは、オランド大統領が「鉄道の安全確保は国の責任だ」と強調し、「すべての荷物を調べるのは難しいが、テロ防止のために抜き打ち検査は必要だ」。

スペインでは、2004年に191人が死亡した列車爆発テロを受け、国内の長距離路線で荷物検査を導入している。

ベルギーでは、事件後タリスの乗客への手荷物検査の実施や、駅施設などでの監視を強化する方針を示している。

27日 国会で民主党など野党側が提出した「人種差別撤廃施策推進法案」による、ヘイトスピーチ規制の法律化が問われているが、自公の与党側の消極姿勢で、論議が始まっていない。「ヘイトスピーチは許されない」ことでは与野党一致しているとのことだが、「表現の自由」を巡って溝が埋まらない。主要国では法整備が進められており、国連人種差別撤廃委員会は昨年8月、日本政府に対して人種差別禁止法を制定するとともに、ヘイトスピーチを規制するよう勧告している。

30日 大阪府寝屋川市の中学生2人が遺体で見つかった事件で、防犯(監視)カメラの映像が容疑者特定の決め手になったことが、話題になっている。カメラの映像を重視する捜査手法は定着しており、大阪府警では4月に「犯罪抑止戦略本部」を新設し、90人態勢でカメラの映像データを収集・解析する組織としている。警視庁が2009年に「捜査支援分析センター」と同様の組織。これらの監視カメラの需要は、2013年度で約1545億円の売り上げが推定されていて、年々拡大している。

31日 新年度予算の概算要求がまとまった。警察・治安対策では、来年5月に伊勢志摩サミットが開催されることから、警察庁分で156億6000万円。海上保安庁は警備機材の整備費などに11億8000万円が、特に挙げられている。これ以外にもさサミット対策としては外務省分に176億3000万円があげられ、首脳陣の移動のための防弾車の手配などが入っている。2008年の洞爺湖サミットでは予備費からの支出や補正予算での追加などで、外務省分で約255億円を超えており、今回のサミットの準備と警備対策では、相当な支出がなされるものと思われる。

また、安保法制の審議が進められる中で、自衛隊の装備拡大など軍事予算の伸びが目立つ。総額では過去最大の5兆911億円となったが、武器等の購入費の好年度以降での支払い分が4兆8815億円と積みあがっており、来年度以降の軍拡も前提とされることに。

国会審議から見えてきた安全保障関連法案の本質

7月16日、安全保障関連法案が衆議院で強行採決され、参議院での審議も大詰めを迎えつつある。政府側の説明は、様々な論点で二転三転したり、曖昧模糊な答弁に終始したりしている。特徴的な答弁は、「イスラーム・ステート」(IS)掃討作戦への後方支援について問いただされた際の、「政策的判断として軍事作戦を行う有志連合に参加する考えはない」、「法制度ができたとしても、要件が満たされれば必ず派遣するかといえばそうではない。その時々の政策判断がある」(安倍首相、衆議院平和安全法制特別委員会、5月28日)といったものだ。「××は法的に可能になるのか」という質問に、「××は現在はやる気はない」とはぐらかすのである。これでは、論議は深まりようがない。
だが、安保法整備の審議で、その本質が見えやすくなってきたことも確かである。
岸田外相は、8月26日の参議院平和安全法制特別委員会での答弁で、日本が自衛権の行使途中で集団安全保障措置に切り替わった場合のみ参加可能としてきた集団安全保障措置について、自衛権行使前でも参加可能になると説明した。具体的には、自衛権とは無関係に、「国連安保理決議あるいはそれに類するもの」を根拠に多国籍軍に弾薬輸送を含む後方支援という形で参戦するということだ。 国際平和支援法により、時限的な特別措置法で実施されたインド洋での給油活動などが恒久化されるのである。なお、「国連安保理決議あるいはそれに類するもの」という根拠付けが困難な場合でも、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)を理由に、多国籍軍への後方支援を実施するつもりだと思われる。イラク戦争型有志同盟軍への後方支援も可能にするというわけだ。
また、安全保障関連法案の成立を前提に、防衛省が南スーダンPKOに派兵されている自衛隊の任務に駆け付け警護を加えることを検討していることが、参議院平和安全法制特別委員会で明らかになった。安全保障関連法案の国際平和協力法(PKO法)改悪部分が、法案成立後に最初に政策として実施されるというわけだ。南スーダンは、西はISの活動が活発化しているマグレブやサヘル・サハラにつながり、北はイスラム主義政権が支配するスーダンと対峙し、南はソマリアでの「テロとの戦い」の主力を担うケニアに接する。いわばアフリカにおける「テロとの戦い」のヘソだ。また、PKO法改悪により、NATO諸国軍がアフガニスタンで行ってきたような治安支援活動への参加も可能になる。
防衛省が8月18日に参議院平和安全法制特別委員会理事懇談会に提出した内部資料では、「任務遂行のために武器使用」を行うケースとして、PKOの駆け付け警護以外にも邦人救出が挙げられていた。自衛隊法改悪で実施可能にしようとしている邦人救出も、アルジェリア日揮プラント襲撃事件などを念頭に置いたものだ。
アフガニスタン─イラク戦争型多国籍軍・有志同盟軍への後方支援、大規模戦闘終了後の治安活動、危険性の高いPKOでの他国軍への駆け付け警護、邦人救出、全て「テロとの戦い」を想定したものである。安全保障関連法案とは、「対テロ戦争」参戦法なのだ。なお、盗聴法の拡大、共謀罪新設などは、それと表裏一体のものである。
前述の防衛省内部資料は、2015年4月版の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)と安全保障関連法案に基づく対米協力の拡大も検討していた。このうち具体的な検討項目として目立つのは「南シナ海での平時の警戒監視」だと報じられている(東京新聞八月一九日朝刊)。これに関して、中谷防衛相は、国会審議では可能性を否定しないが、あいまいにしか説明してこなかった。だが、法案成立後にはやる気満々というわけだ。
安全保障関連法案の第一の本質が「対テロ戦争」参戦であるとすれな、第二の本質は、この対中抑止力強化である。『サンデー毎日』(2015年6月28日号)は、これに関する興味深い記事を掲載している。それは、6月2日に訪日したフィリッピンのベニグノ・アキノ三世大統領と安倍首相の間で日比の「訪問軍協定」(VFA)手行ける交渉入りの密約が交わされたというものである。この日比VFAができれば、自衛隊がフィリッピン国内の基地を一時使用できるようになる。豪比VFAと同様の内容ならば、自衛隊が日米地位協定で在日米軍が得ているような治外法権を手にすることができる。
ここで思い出して欲しいのが、武力攻撃事態法の存立危機事態の定義である。それは、「我が国と密接な関係にある国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される危険がある事態」というものだ。そして、この存立危機事態においては、日本が攻撃されていなくとも、集団的自衛権が行使できると政府は言っている。