不心得な「所内生活の心得」

①はじめに
いま高い塀の中では、受刑者処遇の主旨に反するかのように、具体的な法律の根拠なしに命令や強制が幅を利かせている。
その指南書が「所内生活の心得」なのである。
この居室備付け冊子は百ページもあっり、当所で生活していく上で知っておくべき事項及び守らなければならぬ事項がまとめられている別冊「受刑者の遵守事項」「居室整理整とん要領」もある。岐阜刑では、同「心得」を平成二五年七月に全面改正しているが、しょせん居直りの改悪であることは、以下の内容が雄弁に語ろう。
②刑務作業
原則として、作業中の「離席・交談・脇見」が禁止されているが、「居室内における作業であっても、工場に就業する受刑者と同様の動作」を要求し、目と鼻の先に水洗トイレがあっても、「用便等で作業席を離れる場合には、報知器により職員に届出、お茶も休けい及び昼食時間に飲むこと」、「作業時間中は飲まないこと」を強制する。
しかし、老囚は喉の湿りに水分補給が必要で、血圧降下剤の多種服用による副作用から口中の渇き、便秘症により湯茶は手放せず、特に真夏の熱中対策としても、こまめな水分補給は命の水。
それで医務課に作業中の「湯茶飲用許可」を願い出たところ、不許可。筆者は、この件で岐阜地裁に本人訴訟したが、岐阜村のせいで敗訴。
③作業報奨金
作業報奨金は、「あくまでも計算額として存在するので、原則として釈放時に支給」、「相当の理由があると認められるときは」、優遇区分が5類の場合、旧監獄法下のランク付け「累進処遇令」を持ち込んだ形で、「前月の報奨金加算月額四分の一以下」。
しかし、施行規則六〇条は「計算額二分の一」を超えない範囲でその使用を認めており、「四分の一」では自弁購入もままならず、本人訴訟中の者には合法の皮をかぶった兵糧攻めとなっている。
④信書の発受
発信は一日に四通まで可。「通数は申請の数であり、検査の結果、禁止又は差止め制限を受けた場合には、通数にカウントされる」
さらに「訴状及び告訴状等については、原則として通数内発信とする」ことになり、民事訴訟法上の訴権(当事者権)又は刑事訴訟法上の告訴権を侵害し、受刑者処遇法一二八条但書でいう「訴訟遂行」妨害により、筆者は三年前に無効等確認の訴えを起こしているが、これも請求棄却。
その後、訴状及び告訴告発に関しては通数発信は許可されている。
⑤一般備付書籍(官本)
工場出役は一人二冊、貸与期間は一週間となっているが、居室にテレビがあるため、官本利用度は低い。
一方、処遇上独居収容者は、いつも差別扱いを受け、一人三冊、貸与期間は一四日間となっているが、図書目録による選択日が月二回(第二・第四金曜日)の「教育指導日」に設定されたことから、カレンダー上の曜日配列により、官本の返納日から貸出日まで月またぎとなり、その結果、一週間の空白期間が生じることになった。
それで筆者は貸与方法に腹を立て、居室内の窓ガラス等を割ったことから、四〇日の体罰を打たれた上(罰金四五〇〇円)、一年後、器物損壊罪で「五月」の増刑となった。
しかし、今もって「書籍等の閲覧に関する通達」でいう「速やかな貸与」を受ける権利は守られていない。
⑥狂っている整理整とん要領
一般常識では、狭い部屋を広く使うのが整理整とん術であるが、当所は狭い部屋を殊更狭く使用させようとしている。
例えば、(1)私物棚は「原則として書籍類(ノートを含む)及び日用品類を収納すること、薬袋やチリ紙も上段に置き、上下に積み重ね置きすることは認めない」。
また、(2)「書籍類は、背表紙が見える状態で縦置とし、廊下側から背の低い書籍から順に…」、「二列に並べて置くことは認めない」。「下段に収納する物品は、底板からはみ出さないこと」とあり、ほとんどビョーキ。
(3)その他、私物保管袋の置き場所とか、小机の使用を定め、意味なく私物の収納を禁止する。
(4)極め付きは、作業中の着座位置について、「小机を壁から一〇センチ離した位置とし、」三〇センチ定規を持ってきて計ったりする。
つまり、ヤカン、ポット及びハンカチに至るまで事細かく指示し、いつでも「注意三回」で懲罰漬けにしようとする。
しかし、いくら受刑者にはプライバシーがないとはいえ、こう権力の過度の介入はの仕方は、個々人の社会復帰を困難にするばかりか、法三〇条(受刑者の処遇の原則)に反しよう。
なお、指定位置で室内作業したり就寝しているのに、視察困難を口実に目隠し用衝立のしようまで制限し(用便時食事中以外)、その不体裁におかまいなく、今日も便所の中で生活させる。
だが、冬のノロウイルス、夏のO157などの空気感染を考えると、衛生対策上の問題は看過できない。
なぜなら、大便時でも衝立を移動させるのが面倒いため、尻丸出しで用を足している者がおるからである
⑦いい加減な夏季及び冬季処遇
夏季処遇中はウチワ一本のみ、室内作業中は使用禁止。食器口の全面開放も四五度に計り、さらに風通しを悪くする。熱中症患者があっても消防庁に連絡しないから、刑事施設はカウントされない。
それ故、老囚は「熱中症」のリスクが高くなる。
真冬は連日の氷点下、例年、昼夜単独室棟の長い廊下(六〇M)に設置される灯油ストーブ二基を撤去し、懲役イジメに余念がない。

二〇一六年三月六日記                 岐阜刑務所 北谷 隆