第一部 弾圧との闘い【3】

三、情宣活動などへの弾圧との闘い

 私達は、自分たちの意見や主張を広く訴えるために集会を開いたり、デモを行ったり、ステッカーやポスターを貼ったり、街頭や駅頭で宣伝カーやスピーカーを使って演説をし、ビラを撒いたり、カンパや署名を呼びかけたりします。また、公園・広場などで、バンドの演奏や演劇、公開討論などさまざまなパフォーマンスも行います。

 ところが、実際にこのような活動をしていると、警察や、駅員や公園の管理者などが介入してくることがあります。表向きには、近所から騒音の苦情が来たとか、通行の妨げになるとか、町の美観を損なうとか、駅や建物の敷地内に勝手に入ってはいけないというのですが、表現活動への不当な干渉、妨害と言わざるを得ません。このような権力の介入・弾圧に対しては、原則的な闘いをもって応えていきましょう。

 また、ステッカー貼りやビラ撒き、街頭情宣にでかける時は、念のため、身分証明書や免許証など身元が分かるものや重要書類などはもって行かないようにしましょう。

 憲法第二十一条には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」とあり、これらの活動の権利は、すべて憲法で無条件に保障されています。

 集会とは、二人以上の人が共通の目的で一時的に一定の場所に集うことを言い、結社とは、二人以上の人が共通の目的で継続的に団体を形成することです。いずれも、目的は問いません。ですから、政府の特定の政策に反対するような政治的なものに限らず、バンドのコンサートや映画の鑑賞会、スポーツの観戦も「集会」ですし、タレントのファンクラブや趣味のサークルなども「結社」に含まれます。

 このように、わたしたちの生活と密接な関係がある集会・結社・表現の自由は、重要な基本的人権です。権力による権利侵害と闘い、みんなで大切に守ってゆきましょう。

1 屋内集会でも許可がいるか

 集会を予定し、ビラをまいたりして広く宣伝すると、警察が主催者のところに集会届けを出すようにと連絡してくることがあります。各地の「公安条例」では「道路や公共の場所での集会の場合、競技会や冠婚葬祭等の行事を除いて、公安委員会の許可が必要」とされている場合が多いのです。

 公安条例が憲法違反であると言われているのは、表現の自由が制約を受けているからです。違憲の疑いがあるとはいえ、現にある公安条例の規定から言えば、不特定多数の人々に呼びかけて集会を開く場合には集会届けを出さなければならないことになります。ただし参加者が内輪の者に限られている会議などについては、もちろん届けを出す必要はありません。小規模の屋内集会なら届けなしでやれているのが普通です。許可申請は、所轄署に備えつけの用紙で公安委員会に出すことになっています。

 あくまで憲法違反の公安条例には従えないと、届けを出さずに頑張ることもできますが、当日無届け集会であることを口実に、警察が介入してきたという例もあります。警察から集会届けを出すようにといってこない限り、こちらから出しにいく必要はないと思います。

2 デモの申請について

 公安条例では、デモに対してもやかましく規制しています。公安委員会は交通の妨害等を理由に、こと細かい許可条件をつけてくる場合が多いのですが、これも明らかに憲法違反と言えます。

 デモの申請は、デモ出発の七十二時間前までに、デモ出発地の所轄の警察署に申請することとされており、これに対して、公安委員会は許可をしたら二十四時間前までに主催者に交付しなければならないとされています。なお、公安条例は各都道府県ごとに制定されているので、条例の内容については、各地で若干の差があります。

 デモのコースについては、他のデモとの関係や交通秩序維持を理由に変更させられることもあります。コース変更に対しては、「路線変更処分の取消の訴」と「路線変更処分の執行停止の申立て」によって争うこともできますが、これは法律の技術的な問題でもあり、弁護士に相談するなり、事前の準備が必要です。

 なお、運動の中で比較的短い距離のデモを行うことがあります。こういう場合、警察は無届けデモだからとすぐ規制してきますが、とりわけ交通の妨害になるわけでもなく、このようなデモまで規制するのは、職権濫用と言えます。

3 ステッカー貼りでも逮捕されるのか

 ステッカーやポスターを貼っていて、軽犯罪法や屋外広告物条例違反で逮捕されることがあります。

 確かに、軽犯罪法第一条三三号では「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、もしくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物もしくは標示物を汚すこと」を禁止しています。しかし軽犯罪法第四条には「この法律の通用にあたっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」という規定があり、「軽犯罪」とは言え、そもそも立法時から濫用が懸念されていたような悪法なのです。

 なお、屋外広告物条例でも「美観風致を害するもの」として規制を加えています。判例からみれば、軽犯罪法違反にしても屋外広告物条例違反にしても、「表現の自由」との争いでは有罪・無罪と分かれるところです。私達の回りでは、起訴された例はほとんどありませんが、略式裁判で数万円の罰金の判決が出たことはあります。

 いずれにしても、見張りを必ずたてるとか、逮捕されないように気をつけるしかありません。あらかじめステッカーを貼りそうなところに張り込んでいることなどもありますから注意しましょう。

4 アパート・マンション等のビラ入れへの弾圧

 選挙のためのチラシや、催し物の案内、地域の住民運動のニュースなどを、アパート・マンションや各家のポストなどに配っていて、住居侵入などで逮捕されることがあります。警察官宿舎に気づかないで入ったり、住民の通報があった場合です。

 二〇〇四年二月二十七日、東京都立川市にある自衛隊官舎に反戦ビラをビラ入れしたことが「住居侵入」に当たるとして、立川自衛隊監視テント村の三人が令状逮捕され、六ヵ所が家宅捜索されました。イラクに自衛隊を派兵するという、日本が本格的に戦争に踏み込んでいく中で起きた弾圧でした。この裁判では、二〇〇四年十二月十六日、東京地裁八王子支部は無罪判決を下しましたが、二〇〇五年十二月九日、東京高裁はそれぞれ罰金十万円~二十万円という逆転有罪判決を下しました。現在、上告中です。ビラ入れで令状逮捕、しかも起訴というのは前代未聞の出来事でしたが、これ以降、政治的なビラ入れで起訴される事案も出ています。

5 ビラ撒きやカンパ活動、路上ライブ(音楽や演劇)などの妨害に対して

 街頭でのビラ撒きやカンパ・署名活動は、政治活動に限らず、いたるところで行われています。また小規模の音楽演奏や芝居などを、公園や広場、駅頭や路上で行うことがあります。このようなとき、警察が介入してきて中止するよう警告されたり、逮捕されることがあります。しかし、これらの行為に道路交通法を通用するのは明らかにいきすぎと言えます。常識的には、交通の妨げにならない限りは、自由とするのが当然です。

 普通、警察が弾圧してくる口実としているのは道路交通法第七十七条で、ここでは「道路に人が集まり、一般交通に著しい影響を及ぼす行為」の場合、所轄署長の道路使用許可を要するとされているのです。

  駅の構内の場合は、鉄道営業法第三十五条で、許可なくしてはカンパやビラ撒きをしてはならないとされており、同法第四十二条では鉄道係員に退去を強制する権限を与えています。威力業務妨害罪が適用されることもあります。

 一九八八年に国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律、その後、拡声器による暴騒音の規制に関する条例(東京では一九九二年)などが制定され、国会周辺や特定地域での宣伝活動がさらに制限されてきています。また公選法の改悪で、選挙期間は他の宣伝カーの活動ができなくなりました。

 また、駅や建物の「敷地内」でビラをまいたとして、刑法の建造物侵入罪で逮捕してくることもあります。東京都では、公立学校の卒・入学式で、日の丸の掲揚と君が代の斉唱が執拗なまでに強制されています。二〇〇五年三月四日、東京都町田市の野津田高校前で得これに抗議するビラを撒いていた二人が、三月八日には東京都葛飾区の農産高校前で一人が、建造物侵入容疑で逮捕されました。四日の二人については、地裁八王子支部が「敷地に入っていない」と検事の勾留請求を却下、八日の一人については検事は勾留請求もできずに釈放しました。