第一部 弾圧との闘い【2】

二、家宅捜索に対して

 最近では、被逮捕者の自宅はもとより、その友人・家族に至るまで捜索範囲が拡大され、一方では軽犯罪法違反(たとえばステッカー貼り)などの微罪の場合でも、ものものしく捜索が行われるケースが増えています。こうした傾向が一般に広がっています。ちょっとした知り合いが逮捕されただけでも家宅捜索される恐れはあります。十分に注意しましょう。

 捜索の時期にしても、従来は、被逮捕者が出てからその関連で捜索するといった形がほとんどでしたが、最近では、事前弾圧として、あるいは組織や運動の実態を調べ、つぶしていくための情報収集、でっち上げのための証拠収集のための捜索が増えています。さらに、捜索という行為によって権力を誇示し、組織や個人に威圧を与え動揺させるなど、その目的も広範囲となり、時期の予測も困難になっています。無差別に家宅捜索するのは、その人が全く無関係を承知の上で「あいつはなにか危ないことに関わっているらしい。関り合いにならないようにしよう」と周囲の人達が思うことを狙っているのです。こうして人と人の関係が分断されていくのです。

 一般の市民が他人の家に無断で入れば「住居侵入」になります。官憲の侵入は一般市民以上に厳しく規制されるのが当然ですから、捜索に対しては、しつこいほどの点検と監視・抗議・反撃を行っていくことが重要です。

1 家宅捜索にはこうして備えよう

 身近に被逮捕者が出た場合には、次の準備をします。もちろん被逮捕者の出ない場合にも、「氏名不詳の者の××容疑」などで捜索されることがありますから、常日頃の警戒心が必要とされます。

 誰でもしっかりした立会人になれるような心構えでいて下さい。捜索・押収の対象は通常、機関紙誌・ビラ・メモ・指令・名簿・住所録・議事録・予定表・現金出納帳・通帳・カード・録音テープ・ビデオテープ・フロッピー・パソコンその他で、令状に明記してあります。

 捜索は事件の関連証拠の差押えのために行われるものですから、事件に関係ないものを押収することは許されません。しかし多くの場合、差押えの対象が拡大解釈されることが多いので、日頃から、自分の書類やノートなどの置き場所を充分考えておくとよいでしょう。

 違法捜索について、後で「準抗告」その他で争うための証拠保全用に、メモ用紙・筆記具・カメラ・レコーダーを用意しておくことも必要です。

2 捜索は拒否できるか

 警察官は普通五、六名程度のかなりの人数で来ますから、圧倒されたり、あわててしまうことが多いものですが、まずこの第一歩が肝心です。落ち着いて令状をよく読み、写させるよう要求することです。また立会いが可能な範囲で捜索させるよう警官の人数を減らさせることも要求しましょう。こちら側も、可能な限り複数での立会を要求しましょう。その上で、捜索令状に間違いがない場合には、残念ながら現在の法律上では、捜索を拒否することはできません。なお令状なしの任意での捜索に対しては、はっきりと断わるべきです。

 ただし、刑事訴訟法第二百二十条では「逮捕の現場で差押え、捜索又は検証をすることができる」と認められているので、この場合は、捜索令状なしでも捜索ができるとされています。

 捜索の際、身につけたものまで調べることは、身体捜索令状がない限りはできません。しかし最近では家宅捜索令状に身体捜索令状をつけてくるケースが増えています。また、さまざまな口実で身につけた物を調べたり、不当な捜索に抗議した立会人を公務執行妨害容疑で逮捕するというケースもあります。

 捜索は刑事訴訟法第百十六条で通常日の出から日没までと定められており、実際は、早朝が多いのですが、近頃は昼間や夜間でも行われることが増えてきました。ただし夜間の場合は、特別令状がない限り、日没後の捜索をしてはならないことになっています。昼から続いて夜間にまでわたることはこの限りではありません。

3 立会人はどういうことに注意すべきか

 捜索の場合、全く誰もいない留守宅に踏み込むことはできません。捜索には必ず立会人が必要なのです。家人が留守の場合はアパートの管理人、下宿の大家、近くの消防署員などを立会人にして捜索する場合もあります。しかし、ただ漠然と立会うだけでは監視の役割を果すことはできません。したがって、できることなら責任をもって立会ってくれる人、信頼のできる人をあらかじめ頼んでおき、管理人や大家にそこへ連絡してくれるように頼んでおくことも必要です。

 では、立会人は具体的にどういうことに注意すればいいのでしょうか。

 まず警察官をすぐには玄関からあげず、ドアの外で対応しましょう。捜索に来た警察官の人数を確認し、責任者の官職・氏名を明らかにさせます。

 令状をきちんと手にとってよく読み、有効期限内かどうか、氏名や住所その他の記載に間違いがないかを確かめます。記載に間違いがあれば、捜索を拒否して、出直してくるよう要求します。

 次に令状を書き写します。ここは現場の力関係です。頑張って下さい。特に被疑事実、対象物件、発行裁判所・裁判官名等に注意しましょう。夜間の場合は、夜間の特別令状となっているかどうかを確かめます。

 捜索令状を確認した後に、立会人は住所などを聞かれます。この時、捜査員に所定の用紙に住所・氏名・生年月日を書くように言われますが、自分で書かずに口頭で伝え、警察官に書かせます。筆跡までとられる必要はありません。

 実際に捜索が開始される時、令状に書いてある場所、押収すべき物の範囲を限定させます。捜索の対象となる場所から立会人以外は排除されるのが通常です。捜索の対象となる場所にある電話の使用も制限されることがあります。

 捜索は、立会人の目の届く範囲で行なうように要求しましょう。令状の範囲を越えた捜索や文書等を写真にとる行為などは抗議してやめさせましょう。とくに文書類や住所録の写真撮影については、本来押収できない物を写真にとることによって事実上押収したことになりますから、厳重に抗議して止めさせるべきです。

  また、パソコンについては、中に入っているデータを確認しようとしますし、中のデータが見られない場合(パスワードがかけられている場合など)には、そのパソコンを丸ごと押収していくこともあります。フロッピーや携帯電話についても、同様に丸ごと押収していくことがあります。

 最高裁判所の判例(最高裁一九九八年五月一日第二小法廷決定)は、パソコン一台、フロッピーディスク合計百八枚等を差し押さえた処分について準抗告がされた事案について、「令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに右パソコン、フロッピーディスク等を差し押さえることが許される」との判断を示し、適法と判断している例があります。この例は、コンピュータを起動させるとディスク内容が消去されるソフトが組み込まれていた場合ですので、このようなソフトが組み込まれていない普通のパソコンやディスクについては直ちに妥当しないと考えられます。

 現場では、この要件を満たさないことを主張して、パソコンやディスクが押収されることに対して強く抗議しましょう。その上で、万一、押収されてしまったら、直ちに、管轄の地方裁判所に対して準抗告を申し立てましょう。多くの場合には、パソコン等がすぐに返却されています(但し、データは全て捜査機関によってコピーされている可能性があります)。

 多くの場合、パソコンの中のデータのうち、捜査機関が欲しがっているのは住所録ですので、そういうものはパソコンの中に保存しないか、暗号化することが必要だと考えられます。

 現在、国会で審議中の共謀罪の新設を提案している「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」は、パソコン等の中のデータを、捜査機関が持ってきた別の媒体(MOやCD-Rなど)に記録(複写)したり、印刷し、その別の媒体や印刷物を差し押さえることができるという新しい制度を新設しようとしています。

 現在でも、被疑者ではない第三者に対する差押えの際には、第三者が別の媒体にコピーしたものを任意提出し、それを差し押さえていますが、この運用を法律で規定しようとするものです。

 したがって、この制度が新設されれば、被疑者以外の第三者については、パソコン等が丸ごと差し押さえられなくなると考えられますが、差押えの方法は捜査機関が自由に選べることになっているため、被疑者については、従来通り、パソコン等が丸ごと差し押さえられる可能性が高いと考えられます。

 いずれにしても、現行法上は、被疑者以外の第三者についても、パソコン等が丸ごと差し押さえられる可能性がありますので注意が必要です。

 最近の警察のやり方は特に悪質です。部屋になかった物を警察が持ってきて、そこにあったかのようにして押収するとか、そこにあった物を押収品としてではなくこっそりと持っていくなどです。立会人は警察官の動作を一つひとつ監視し、不当な行為は一切許さず、どんなに小さなことでも、不当なことは不当だとはっきり抗議し、毅然たる態度をとることが重要です。

 捜索の過程でのやりとりをレコーダーにとったり、捜査員の違法な行為を写真にとることなども必要です。のちに捜索・押収の違法性を争う準抗告などを申立てるときに証拠になりますし、あるいは記憶を呼びおこす意味で有効です。職務を執行している公務員に肖像権はありませんが、カメラなどを押収されないように注意して下さい。

 次に、警察官が押収しようとする物が令状に書いてある範囲を越えていないかどうかを確かめます。とくに名簿や会議録など事件と全く関係ないものを狙ってきます。令状に記載された以外のものは絶対に渡してはなりません。

 押収品が決まったら、捜索の責任者は「押収品目録」を立会人に交付します。押収品目録に捜索の責任者の署名捺印、事件の被疑者名、被疑罪名、押収品全部がきちんと特定できるような形で記載してあるかどうかを確認してから受け取ります。押収品が何もない場合は「捜索証明書」を捜査官に必ず発行させましょう。捜索証明書は、押収品が何もなかった場合、立会人から請求されれば必ず発行しなければならないことになっています(刑事訴訟法第百十九条)。しかし、立会人が要求しない場合、捜査員は捜索証明書を発行しません。押収品目録や捜索証明書の交付によって捜索は終了したことになります。

 いったん捜索を終了して出ていったあとで、ひき返してきて「捜索し忘れたところがあるのでもう一度捜索したい」などと言ってきても絶対に応じてはいけません。拒否することです。

4 身体捜索について

 身体捜索令状

 警察が、特定の人物の持ち物などを捜索しようとする場合、身体捜索令状が必要です。車の捜索や、職場のロッカーや机の捜索を行う場合にも、それぞれの対象を特定した捜索令状が必要なのと同様に、身体捜索の場合も人物を特定した捜索令状が必要です。ただし、事務所などを捜索する場合、全く不当なことですが、その事務所にいた人全員の身体捜索が許可された令状を持ってくる場合があります(身体捜索付き捜索令状)ので、この点はきちんと確認する必要があります。もし、身体捜索付き捜索令状でなければ、立会人を含め、事務所にいた人の身体や持ち物の捜索はできません。

 このほか、現行犯逮捕や令状逮捕されたときは、令状なしでも家宅捜索や身体捜索ができることになっています。

 身体捜索の方法と範囲

 身体捜索は、出勤時に職場の前で待ちぶせしていて、近くの交番に連れ込んで行われる場合が多いのですが、重要な書類を持っていそうな時を狙われることもあるので注意が必要です。いずれにしても、あわてないで、毅然とした対応をしましょう。女性に対する身体捜索については、医師か成年の女性を立ち会わせなければならないことになっています。

 問題となるのは身体捜索の範囲ですが、身体捜索は、身体の特徴などを調べる身体検査とは全く違うもので、持っているカバンの中身や、ポケットの中にあるものを調べる程度なのが通常です。上着や靴をぬがせて調べ、ズボンは上からさわる程度でしょう。

 しかし、身体捜索はほとんどの場合、相手に屈辱感をあたえるために行われているのです。ひどい場合には、下着一枚にされたなどという報告もあります。このような無法な身体捜索に対しては、社会的に明らかにし、国賠請求等の法的な反撃をしていくことも必要です。

 身体捜索の場合も、押収物があれば押収品目録が交付されますし、押収品がない場合は捜索証明書の交付を忘れずに要求しましょう。

 また、相手を動揺させようとして、家宅捜索や身体捜索、車や職場の捜索を繰り返す場合もありますが、仲間の力を合わせて、準抗告などで反撃していくことが重要です。

5 捜索・押収への反撃について

 押収が違法・不当であるときには不服申立てとしての準抗告をすることができます(刑事訴訟法第四百二十九条)。また押収されたものを返還するように請求することもできます(刑事訴訟法第百二十三条)。いずれも捜索・差押えのあった地域を管轄する地方裁判所に対して行ないます。準抗告があった場合、裁判所は捜索の責任者に事情聴取するなどして事実関係を調査し、決定を出します。準抗告を裁判所に申し立てたら、警察があわてて押収物を返してくることもよくあります。また、押収物の返還を警察に直接要求して返還される場合もあります。家宅捜索で押収物がなかった場合は、準抗告をすることはできません。

 準抗告しても押収物が戻らない場合や、捜索のやり方がひどい場合などは、弁護士を頼んで国家賠償請求を申し立てましょう。捜索に関連する書類が提出されたり、実際に現場にいた警察官を法廷に証人として呼んで取り調べることができます。すでに各地でいくつか申し立てており、部分的勝訴を勝ち取っています。詳しくは救援連絡センターに問い合わせてください。

 最後に、捜索・押収があったときは、必ず救援連絡センターや関係者に連絡しましょう。とくに重要な物を押収されたわけではないからといって、そのままにしておかないことです。一ヵ所の捜索だけでは何が権力の狙いなのかはわからなくても、何の容疑で、どういうところが捜索されたか、何を押収されたかなど、全体をみることによって、その狙いがはっきりしてくる場合があるからです。

 また、記憶が鮮明なうちに報告書を書いておきます。準抗告などをしようと思っても、時間が経つと忘れてしまうことが多いものです。